本研究では、一酸化二窒素の「大気の窓」領域(200から210nm)における光分解過程に^<14>N/^<16>N同位体効果が存在するかどうかの実験的検証を目的とした。背景には、成層圏に存在する一酸化二窒素が対流圏のものに比べて重い同位体を多く含んでいることがある。平成11年度の研究では、^<14>N_2O、^<14>N^<15>NO、および^<15>N^<14>NOを真空チャンバー内に噴出させ、202から206nmの波長の光を照射した。202から204nmの領域では光分解に続いて、N_2が共鳴多光子イオン化する。205.47nmでは生成した第一励起状態の酸素原子が共鳴イオン化する。これらの過程で生成したイオンを飛行時間型質量分析計で質量選別した後に検出した。その結果、酸素原子の量は、^<14>N^<15>NOの場合10%、^<15>N^<14>NOでも3%同位体置換により減少することが判明した。この結果は、成層圏での同位体濃縮の原因の一つが、その光分解過程にあることを示している。一方、N_2では、重い同位体を含む系で30%強い信号が観測された。これは、高く回転励起した^<14>N^<15>Nと^<14>N_2で検出効率が異なるためと考えられる。12年度は、光分解で生成するN_2分子の状態分布を分解光の波長を変えて測定し、さらに同位体効果について検証した。193nmの光分解では、N_2は高く回転励起され、全体の利用しうるエネルギーの60%が回転励起に使われ、残りの40%が並進運動エネルギーとなる。今回、励起波長を205nm、210nmに設定した実験を行った。その結果、励起エネルギーの減少とともに内部エネルギーの減少がみられたが、上記の比に変化は見られなかった。また、内部状態分布に大きな同位体効果は観測されなかった。これは、分解経路となるポテンシャル曲面が光分解の波長を変化させても変わっていないことを示す。
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