本年度は、過渡回折格子法(TG法)による光熱変換過程の測定を超臨界流体で行うための準備として、溶液中でさまざまな電荷移動(CT)錯体に対する測定をおこなった。測定の対象としたのはトルエン、メシチレン、およびナフタレンとテトラシアノエチレンとの間に生成する錯体である。この錯体のCT吸収帯をフェムト秒ファイバーレーザーの倍波(388nm)で交差励起した後、生成する音響信号を基本波でモニターし、熱放出速度を測定した。その結果、これらのサンプルは極性溶媒中では励起状態は1ピコ秒程度の寿命であり、おおむね10ピコ秒程度での光熱変換を行っていることがあきらかとなった。また、これらのサンプルを超臨界流体で測定するための窓の開口径のひろい高圧光学容器の設計、製作をおこなった。このセルを用いて、超臨界トリフルオロメタン中でのCT錯体の定常吸収の評価をおこない、TG測定が可能であることを確認した。 また、時間分解蛍光プローブ法により、種種の超臨界流体中でのアズレン分子のS_2状態における振動緩和の速度を決定した。得られたS_2状態での振動緩和速度の密度変化と、すでに報告されている基底状態での振動緩和速度の密度依存性と比較すると、おおむね同様の密度依存性を示していることがわかった。このことから、振動緩和の溶媒密度依存性は気相領域におけるIsolated Binary Collisionモデルで理解されうることが明らかとなった。この結論は、分子間斥力が支配的な分子間距離においては溶質溶媒の相関に溶媒分子間の相関があまり反映されないという分子シミュレーションの結果からも支持されるものである。
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