本研究は凝縮相中における光熱変換過程の詳細を明らかにすることを目的とし、超臨界流体を溶媒として用いて、溶質の振動エネルギーをプローブする方法ならびに溶媒の並進エネルギーをプローブする方法の両側面から実験的研究を進めてきた。 溶質をプローブする方法としては時間分解蛍光プローブ法により、種々の超臨界流体中でのアズレン分子のS_2状態における振動緩和の速度を決定した。得られたS_2状態での振動緩和速度の密度変化と、すでに報告されている基底状態での振動緩和速度の密度依存性と比較すると、おおむね同様の密度依存性を示していることがわかった。このことから、振動緩和の溶媒密度依存性は気相領域におけるIsolated Binary Collisionモデルで理解されうることが明らかとなった。この結論は、分子間斥力が支配的な分子間距離においては溶質溶媒の相関に溶媒分子間の相関があまり反映されないという分子シミュレーションの結果からも支持されるものである。 一方、溶媒の並進エネルギーをプローブする方法としては過渡回折格子(TG)法を超臨界流体に適用するためのシステムを新たに構築した。この手法では、光を交差させて溶液を励起することで生じる音響信号の解析を行うことによって溶媒への熱放出速度を測定する。超臨界流体での音速は通常の液体と比較して遅いので、現システムの時間挿引範囲(5ns)で音響信号を測定するために、交差角を非常に大きくとった(150°)光学配置でシステムを構築し、音速の最も遅い臨界密度付近での流体中でも測定することに成功した。現在、超臨界流体中でメシチレンとテトラシアノエチレンの電荷移動錯体における光熱変換速度の測定を行っているところである。これに先立って、アセトニトリル等の極性の液体中で同様の系に対するTG測定をおこない、その結果おおむね10ピコ秒程度で光熱変換を行っていることを明らかにした。
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