固体表面における化学反応制御には、表面における原子・分子の動的挙動と局所構造との相関関係を原子尺度で明らかにすることが必要不可欠である。本研究では、走査トンネル顕微鏡(Scanning Tunnel Microscope、STM)を用いて、遷移金属単結晶表面に化学吸着した原子・分子の吸着状態ならびに表面拡散の様子を原子尺度で実空間・実時間観察し、それに基づいて吸着状態や表面拡散と表面の局所構造との相関関係を明らかにする。 平成11年度は、STM装置の動作確認と温度制御システムの整備を行った。HOPGグラファイト、シリコンの(111)と(100)表面のSTM像を観察した。HOPGについては、六方格子に特有の構造が観測された。シリコンについても、7x7、2x1再構成構造が観測された。原子レベルでの分解能が得られた。 試料は、コールドヘッドと細いCu線で繋がれており、このコールドヘッドの温度を調節することで目的の温度に冷却・加熱される。温度調節は、ヒーター電流と液体ヘリウムの流量を調節して行った。25Kから200Kの温度領域でSTM像の観察ができることを確認した。 さらに、単結晶銀(110)表面上での酸素分子の吸着状態を調べた。STMにより、清浄表面の観察を行い、銀原子の観察に成功した。酸素分子は、この表面で解離して銀原子を巻き込んでAg-Oの一次元鎖状の構造を作る。この構造を観察した。また、本来基盤原子より凸であるはずの鎖構造が凹になって見えることを見出した。この原因は、探針の先端部分に酸素原子が吸着し、の探針先端の電子状態が変化したためであると考えている。
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