温度可変の走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いてPt(111)表面におけるアセチレンの熱分解過程を調べた。アセチレンは、脱水素化してエチリダインCCH_3種になりさらに脱水素化して分解していくことが知られているが、アセチレン1分子からCCH_3種を作るには水素原子の数が足りないため複雑な反応経路をとること言われている。電子エネルギー損失分光による研究では、アセチレンは300Kまで安定に存在しその後、370KでエチニルCCH種とCCH_3種が生成すると報告されている。一方、和周波発生分光法により、120KでアセチレンはビニリデンCCH_2種に分子内転移し、200K付近でビニルCHCH_2種とCCHになり、更に350-370KでCCH_3種に変化することが報告されている。本研究では、STMによりアセチレンの熱分解反応過程を観察し、これら2つの反応経路について検討を行った。30KでアセチレンをPt(111)表面に吸着すると、アセチレンはランダムに吸着する。この表面を120Kまで加熱した後30KでSTM観察をすると、高被覆率表面では、2x2構造が部分的に観察された。一方、低被覆率表面では、吸着種はランダムに吸着しており、吸着種間に相関関係は見られなかった。このことから、120Kで観察される表面吸着種間には、反発的な相互作用が働いていることがわかった。200Kまで加熱すると、高被覆率表面および低被覆率表面でも2x2構造が観測された。低被覆率表面で2x2のアイランドが観測されたことは、表面吸着種間に引力相互作用が働いていることを示している。従来提案されている2つの反応モデルとSTMの結果を比較すると、300K以下でもアセチレンが反応しているとする後者のモデルが妥当であると結論することができる。
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