研究概要 |
内殻電子を励起すると、オージェ崩壊過程が起こるが、この反応時間は分子振動や回転時間より短い。それゆえ、過剰エネルギーは分子内に局在化され、化学結合の切断は分子内の限られた領域で非統計的に起こることが期待される。しかし、化学結合を形成しているのは、内殻電子ではなく、価電子であり、これは分子全体に非局在化して安定化する。本研究では、このような価電子の非局在性を考慮しつつ、内殻電子の局在性を利用した化学結合を選択的に切断する「光メス」の可能性を実験的に検証した。 オージェ崩壊過程においてどのような荷電子が放出されるかをCF_nCl_<4-n>(n=1-3)およびCF_3CN分子について測定をした。その結果、炭素および窒素原子のK殻励起で放出されるオージェ電子にはほとんど差が無く、生成イオンの分布にも差異が観測されなかった。炭素とハロゲン原子のK殻を励起した場合は、オージェ電子放出に少しの違いは観測されたが、光メスの効果は薄かった。 脂肪族分子であるCH_3OCOCNとCH_3OCOCH_2CN,Cl(CH_2)_nCN(n=1-3)分子におけるOおよびNのK殻、Cl原子のL殻を選択的に励起すると、明らかな「光メス」効果が観測された。すなわち、鎖状の長い分子では、分子切断「光メス」の可能性があることが判明した。今後はその機構を実験的に解明する。
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