研究概要 |
1.内殻電子を励起すると、オージェ崩壊過程が起こるが、この反応時間は分子振動や回転時間より短い。それゆえ、過剰エネルギーは分子内に局在化され、化学結合の切断は分子内の限られた領域で非統計的に起こる。オージェ電子は化学結合を形成する価電子であるので、分子内の特定原子の内殻電子を励起すると特定の化学結合を切断する「光メス」の作用が期待される。実際に、CH_3CO(CH_2)_nCN(n=0,1,3)の分子において、NとO原子のK殻電子を個別に励起した。その結果、n=0,1の小さな分子では位置選択性はほとんど観測できなかったが、n=3の長い分子では、N端励起ではさまざまな種類の小さなフラグメントイオンが生じ、O端励起ではCH_3CO^+イオンの生成がが圧倒的であるということが観測された。同じことがCH_3OCO(CH_2)_nCN系列の分子でも観測された。すなわち、一定の大きさをもつ分子においては、内殻電子励起が「光メス」として作用することが確認できた。 2.「光メス」効果を示す分子の価電子の分子軌道について考察した結果、NおよびO原子の価電子が関与する分子軌道は、基本的に独立した関係にあることが分かった。したがって、オージェ崩壊過程で放出される価電子と生成イオンの相関が重要である。オージェ崩壊過程の詳細を解明する目的で、現在、世界で最高の分解能を有するSPring-8のBL27SUビームラインにおいて、CO_2、H_2O、Krなどの基礎的分子や原子について測定をし、世界で初めてのオージェ崩壊過程の観測に成功している。 3.今後は、基礎的分子において用いたオージェ崩壊過程の測定手法を、上記1のような大きな分子に対して適用し、オージェ崩壊過程が「光メス」効果においてどのように作用しいるかを実験的に解明する。
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