今年度は主に現有装置の改良のための設計と製作を行った。当初、試作段階にあった「真空紫外-光子イオン化飛行時間型質量分析計(VUV-PI/TOF-MS)」を、「質量選別しきい値イオン化(MATI)分光装置」に改良した。 本装置において、真空紫外レーザー光はKrを媒体とする共鳴4波混合(Nd:YAGパルスレーザー[Quanta-Ray GCR-290])励起OPOレーザー[Quanta-Ray MOPO-730]+色素レーザー[Lumonics HD500]を光源として用いている)によって発生させている。これまでの装置で、一番の問題点は、その真空紫外レーザー光を発生させるために用いた、紫外レーザー光(Krの二光子共鳴用)および可視光(差周波用)を、発生した真空紫外光と分離することなく同時に光イオン化室に入れていたことであった。今年度は、真空紫外光発生Krセルとイオン化室の間に、真空紫外分光器を入れ、イオン化室には真空紫外光のみ入るようにした。この改良により、金属カルボニルのような弱い(配位)結合を持つ化合物の質量分析において、フラグメントのほとんど無い、TOF-MASSスペクトルを得ることが可能となった。さらに、MATIにするために、イオン検出器と分子線ジェットが同軸上に来るように、パルスバルブの取り付け位置を変更した。MATI分光においては、同じ質量をもっているイオンでも幾つかの異なる到着時間を持っており、必要とする情報(光イオン化ぎりぎりのリドベルグ状態から、弱い電場でイオン化されるイオンのアクションスペクトル)を時間ゲートをかけて選別する必要がある。そのため、高速ボクスカー積算システム(SRS SR235/250/280)を設備備品として購入し、信号処理システムに組み込んだ。
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