昨年度に引き続き、現有装置「真空紫外1光子光イ才ン化飛行時間型質量分析計」の改良を進めた。この装置を用いて芳香族化合物や遷移金属カルボニルのしきい値近傍の光イオン化TOF-MASSスペクトルや生成イオンのイオン化波長依存性を観測した。また、「質量選別しきい値イオン化分光装置」への改造を行い、しきい値分光法の可能性を検討した。 本システムで1光子光イオン化に用いられる真空紫外光は、クリプトンを媒体とする2光子共鳴4波差周波混合によって発生させられる。真空紫外光と強い入力1次光を分離するために真空紫外光発生Krセルとイオン化室の間に、真空紫外分光器を入れた。これにより、1次光による多光子イオン化や2次的なイオン種の光分解の可能性を実験結果から排除することができるようになった。ハロゲン化ベンゼンのしきい値近傍の1光子イオン化実験において、光分解のパターンが敏感な波長依存性を持つことを観測した。さらに、VUVレーザー光のフラツキを補正するために、アナログ演算処理機能付2チャンネルボックスカー(SRS SR235/250×2/235/275)を購入し、VUV強度をモニターしながら、イオン信号を補正するシステムに改良した。これにより、しきい値近傍の生成イオン種のアクションスペクトル(イオン化波長依存性)に構造のあることが観測されている。現在この構造の実験的な再現性や理論的な裏づけを考察している。また、パルス分子線導入部を改作し、「質量選別しきい値イオン化分光」が行えるようにした。電場条件等の問題でまだ意味のあるデータは観測されていないが、現在この分光測定の最適な条件を装置の改良とともに検討している。
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