研究概要 |
1.錯体結晶薄膜での高速電子移動とその初期過程の研究。 オキソチタニルフタロシアニン(OTiPc)は結晶多形を示し、光電導素子として注目されている。これまでの研究はポリマー分散膜で研究が主であったが、金属膜上に結晶を蒸着させ薄膜(100nm厚)とすることで、結晶多形と配向を区別した試料の作成が可能となった。光電導の初期過程を時間相関単一光子計数法による発光寿命測定とフェムト秒時間分解過渡吸収スペクトル測定によって検討した。発光収量と寿命の温度依存性から、光電荷分離は発光する緩和励起状態からではなくその前駆体から起こっていることを明らかにした。光励起後1psでの過渡吸収スペクトルは、溶液でのOTiPc一電子酸化ラジカルの吸収に酷似したので、電荷分離に伴う極めて短寿命のホールが生成したと考えた。基底状態吸収の退色量の変化から、ホールの生成収量を見積った。従来、分子性結晶の光励起状態は励起子として存在するために、高密度励起を行うと励起子間の2分子消失過程が高速で起こって反応生成物を時間分解吸収差スペクトルとして確認することはできないと考えられてきた、本研究で2分子消失反応より速い電荷分離過程を初めて観測できたと結論した。 2.Ru-Os混合結晶での励起移動およびエネルギー移動速度の評価と距離依存性 混合結晶[Os_xRu_<1-x>(bpy)_3]X_2(bpy=2,2'-bipyridine,X=種々の対イオン)でのRu(II)からOs(II)への光エネルギー移動について、発光の多指数関数減衰のダイナミックスを測定した。高濃度にドープされた種々のOs(II)濃度での高速発光減衰曲線をドナー間の励起移動を考慮したモンテカルロ法によるシュミレーションに成功し、近距離での励起移動およびエネルギー移動の機構はどちらも電子交換機構であり、その距離の減衰因子を明らかにすることができた。
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