気相中で原子が数個から数千個程度凝集してできたクラスターは、光応答や磁性といった機能の最小単位であると考えられ、新規な触媒や機能材料として期待できる。このような視点に基づき、下記の3つの成果を得た。(1)金属酸化物および硫化物の電子状態と吸着反応性の検証、(2)気相イオンの選択的ソフトランディング法の確立、(3)昇温脱離分光法による固体基板上での反応過程の追跡、の3点である。(1)については、イットリウム金属の酸化物と鉄、およびコバルトの硫化物について実験を行ない、クラスター中での金属原子の酸化数と電子構造および、硫黄原子による金属電子の架橋構造とそれらクラスターのアンモニア分子との吸着反応性とを明らかにした。(2)については、レーザー蒸発で生成させた有機金属クラスターイオンを対象として、四重極質量分析計でのサイズ選択の後に、30層程度の希ガスアルゴン原子を吸着させた極低温金属基板にソフトランディングさせることに成功した。そして、バナジウム金属の有機金属クラスターの赤外分光を測定して、振動数から構造の情報を得るとともに、入射エネルギー依存性などのソフトランディングの条件を明らかにした。(3)については、(2)でソフトランディングさせた金属基板上のクラスターを利用して、温度上昇に伴うクラスター種の反応とその脱離過程を観測した。その結果、金多結晶基板上で、有機分子とバナジウム金属原子とが選択的な解離をすることがわかった。これらの研究によって、このソフトランディング技術を利用して、気相クラスターを機能単位とする固体基板の修飾、材料開発が可能であることを明らかにできた。
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