研究概要 |
本年度はベンゾフェノンケチルラジカルとアミン類との間での錯体形成と錯体の反応速度解析についてさらに精度を上げて研究を推進した。ケチルラジカルはシクロヘキサン中でベンゾフェノンを308nmのエキシマーレーザーで光励起することによって生成した。過渡吸収スペクトルにより錯体形成を調べた結果、脂肪族アミンであるジエチルアミン、トリエチルアミン、n-プロピルアミン、ジ-n-プロピルアミン、トリ-n-プロピルアミンではいずれもケチルと錯体を形成し、その吸収スペクトルはフリーのケチルラジカルに比べブロードとなり、ピーク位置は5-10nm長波長にシフトした。しかし、芳香族アミンであるN,N-ジメチルアニリンではケチルの吸収は測定されず、ケチルラジカルがアミンと反応してしまったものと考えられる。錯体を形成した脂肪族アミンでは、ケチル-アミン錯体の減衰は遅くなり、フリーなケチルは約30μsで減衰がほぼ終了するのに対し錯体を形成すると減衰は約40μsでも終了しない。トリエチルアミンとトリ-n-プロピルアミンについて減衰を解析したところ、いずれの錯体も2次反応で減衰し、錯体を形成してもケチルはラジカル同士の反応で消滅することがわかった。フリーなケチルに対し2次の減衰速度定数比を求めた結果、ケチル-トリメチルアミン錯体では速度定数が0.5倍、ケチル-トリ-n-プロピルアミン錯体では速度定数が0.45倍となった。このように錯体形成により減衰速度が約2分の1となり、トリメチルアミンに比べてトリ-n-プロピルアミンのほうが僅かではあるが再結合反応を阻害する効果が大きいことがわかった。反応速度が遅くなる原因としては、アミンが付加したためにラジカル中心がアミンで覆われ2次反応が阻害されたと考えられる。
|