研究概要 |
ピコ秒〜フェムト秒領域では、異性化、解離、水素移動などが進行し、またそわらの背景にある電子緩和、振動緩和、溶媒緩和等を実時間で観測できる。これら様々な現象が複雑に組み合わさって成立する化学反応を理解するため、電子状態に対する分光、振動状態に対する分光、核波束運動を実時間観測する分光を駆使して研究を行った。主な成果を以下に列挙する。 1.光パラメトリック増幅(OPA)によりサブ10fsの光パルスを発生させ、数10fsの時間分解能をもつポンプープローブ測定装置を製作した。光励起直後のトランスースチルベンS_1状態の過渡吸収の時間変化を測定、200cm^<-1>のS_1状態ν_<25>振動に由来するビート信号を観測し、この振動モードのみがビート信号としてあらわれる機構を議論した。 2.溶液中で多原子分子をS_n状態へ励起した後おこる緩和過程について、テトラセンを例にとリフェムト秒蛍光分光で研究した。S_n蛍光、S_1蛍光の強度変化および偏光異方性測定により、電子緩和、IVR過程、振動冷却、回転緩和等の一連の緩和ダイナミクスを明らかにした。 3.アゾベンゼンのS_2励起に伴う光異性化をピコ秒ラマン分光およびフェムト秒蛍光分光を用いて研究し、S_2状態からほぼ収率1で平面型のS_1状態が生成することを明らかにした。これにより、これまでいわれていたS_2状態から直接すすむ回転型の異性化経路は実は存在せず、平面型のS_1(nπ*)状態に緩和してから反応が進むということがわかった。 4.1,8-ジヒドロアントラキノンの分子内光プロトン移動反応をフェムト秒蛍光分光法で研究した。互変異性体型の蛍光が光励起後50fs以内に現れること、すなわち励起状態でのプロトン移動が50fs以内で起こること、を見出した。分子内振動再分配に誘起されたプロトン平均位置の変化を反映していると考えられるスペクトル変化をサブピコ秒領域で観測した。
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