本研究は、ラジカル対のナノ秒オーダーの反応ダイナミクスを、マイクロ波パルスを利用した収量検出磁気共鳴により、時間分解能の低い検出器しかない物理量、例えば、屈折率、旋光度などで行おうとするもので、特に、反応終了後の収量の測定からダイナミクス測定が行いうるところに特長がある。まず、信号強度とマイクロ波効果の線形性を検討した結果、反応生成物による検出も過渡光吸収による直接測定に劣らず、十分に信頼しうることが予想された。反応溶液が一定の速度で安定に流れるよう装置を改良した後、X-バンド領域でスペクトルおよびダイナミクスを過渡光吸収(直接)と生成物収量(間接)による同時測定を行った。この二つの測定において、直接・間接手法は実験精度内で一致した結果が得られた。更に言えば、生成物検出の方が照射マイクロ波強度を下げたり、過渡光吸収検出用のモニター光が要らないので、より正確な測定が可能な場合もあることも分かった。特に、検出システム自身がマイクロ波や磁場に依存していないため、容易に新規に開発したKu-バンド装置にも適用できた。 新たな検出法として、反応生成物の示差屈折率による測定を試みたが、信号感度が著しく低く、特にベースライン安定性が悪いため、実用に供するにはかなり困難であると結論した。一方、旋光度検出では信号のS/N比は屈折率と同様あまり優れてはいないが、ベースライン安定性がかなり優れており、ある程度期待がもてると結論した。特に、反応後の溶液の方が検出される旋光度がわずかながら大きな場合があり、ラジカルがキラリティーを保持している内に再結合し、より比旋光度の大きな化合物を与える可能性もあることが明らかになった。
|