カルボカチオンを中間体として進行する固相反応として、光学活性な第3級アルコールのラセミ化およびアルコールを求核試薬とする置換反応の立体化学について研究した。 チエノチオフェンのリチウム化合物とベンゾフルオレノンから得られるトリチル型第3級アルコールを光学分割し、そのd体、1体をそれぞれp-トルエンスルホン酸とメノウ乳鉢中で擦ったところ、ラセミ化速度は同じであった。ところが、光学活性なスルホン酸であるカンファースルホン酸と擦ると、d体と1体では明らかな差が認められた。いずれの場合も、一次速度式にしたがうことが見い出された。 酸触媒の代わりに単離可能な安定なカルボカチオンの塩がラセミ化の触媒になることを見い出した。カルボカチオン塩と擦った粉末にメタノールの蒸気に曝すと、メトキシ置換が起こり、しかもエナンチオ選択性が観測された。塩がルイスの酸として作用し、隣接アルコール分子から直接にヒドロキシ基を引き抜く機構が推定された。 D体と1体をそれぞれメタノールと塩化水素ガスに曝すと、やはり求核置換反応が誘起され、エナンチオ選択性が見られた。これらの結果より、固体中で擦った場合には、カルボカチオンの立体化学は保持の傾向があることを明らかにした。
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