固相でイオン反応が起こる可能性の高い化合物として、縮合チオフェン環からなるトリチル型第3級アルコールに注目した。これらは、非平面分子構造であり、嵩高く剛直な部分構造が包接体結晶のホスト化合物としての用件も備えている。電荷移動相互作用のほか、格子支配による分子間化合物の形成も期待され、固相での異種2分子間反応のモデルとなり得る。 これら化合物群のなかでフルオレニル環を有するジオール体は、アクセプター化合物テトラフルオロTCNQとの電荷移動錯体の結晶を与えた。これをメノウ乳鉢中で摩砕した固体粉末にメタノールの蒸気を当てると、固体状態を保ったままメトキシ置換が起こることを見い出した。テトラフルオロTCNQの換わりにTCNQ自身を用いた場合、同形の電荷移動錯体結晶が得られたが、こちらは、メタノールとの固体-気体接触による求核置換反応は起こらなかった。トポケミカルには差がなくとも、電子効果のみで反応性を制御できることが分かった。電荷移動によりイオンラジカルが発生し、それより第三級カルボカチオンが形成されると考えた。 トリベンゾチエニルメタノール誘導体をDDQとの混合摩砕すると、チオインジゴイド化合物が生成することを見い出した。固体でのラジカル反応と推定した。この生成物は加圧あるいは摩擦により黒色変化し、加熱により可逆的にもとの赤色体に戻るという固体でのダイクロイズムを示すことを見い出した。類似化合物の結晶構造解析より、分子中のドナー部位とアクセプター部位が重なり合い、加圧により電荷移動相互作用が強まる結果と推定した。
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