前年度に得られた結果を用いて、タンデム生成物合成的利用の展開を行うとともに、その過程で新たな興味深い事実を見いだした。 1)o-ブロモチオフェノールから出発したタンデム生成物をラジカル的還元処理すると、o-位が脱ブロモ化して生成したアリールラジカルが硫黄のとなりの炭素についた水素を引き抜いて、さらにチイルラジカルを放出してアルケン与えることを見いだした。このとき反応条件を設定することで共役型あるいは非共役型アルケンを与えるように脱離の方向を制御できた。これはラジカル的な脱離反応で初めての制御成功例である。 2)タンデム反応で導入したアリールチオ基を脱離基として利用することで、β-ラクタムヘ効率よく変換できることを見いだした。すなわち、タンデム生成物のtert-ブチル基をアミドに変換した後、導入されたスルフィドをスルホニウム化して分子内S_N2反応で環化させると、良好な収率でβラクタムが合成できた。さらに、再結晶を利用してタンデム生成物をジアステレオマー的に純粋な形に導いた後、一連の変換反応ができるので、単一の異性体のβラクタムを容易に得ることが可能となった。 3)非対称フマル酸ジエステルへのタンデム反応を検討しているうちに、フマル酸tert-ブチルエチルへのチオールのマイケル付加あるいはマイケル/アルドールタンデム反応が高い位置選択性で進行することを明らかにした。これは非対称フマル酸エステルヘのマイケル付加を効率よく制御した初めての例である。
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