四員環炭素に4個のフェニル基、および2個のフェニル基と2個のtBu基の結合したナフトシクロブテン誘導体を合成し、X線構造解析を行ったところ、四員環の炭素-炭素結合が、1.72〜1.73Åと、極めて長くなっていることが判明した。特にtBu基2個が結合した場合に、最も長い炭素-炭素結合が観察された。それと同時に、四員環が縮合したベンゼン環の炭素-炭素結合は伸びており、ベンゼン環の電子の局在化が観察された。 四員環の炭素-炭素結合が長くなる理由は、立体反発によるものと考えられるが、結合を通しての電子的相互作用で結合が伸びると言う、スルーボンド相互作用説があるので、どちらが真の原因かはっきりしない。このことを明らかにするため、フェニル基が2個、シスおよびトランスに結合したナフトシクロブテン誘導体を合成して、X線構造解析を行ったところ、炭素-炭素結合の長さにほとんど差が現れなかった。この結果は電子的相互作用説は否定され、立体的相互作用説が正しいことを証明するものである。 同様に、フェニル基を置換したアントラジシクロブテン誘導体とフエナントラジシクロブテン誘導体を合成してX線構造解析を行ったところ、いずれの場合も立体的反発のため、四員環の炭素-炭素結合が異常に長く伸びていることが判明した。 これらの異常に長い結合を含むシクロブテン環は、熱的に安定であることも判明したが、これは次の理由によるものと考えられる。もし、四員環が開裂すれば、立体的に更に混み合いの大きいビラジカル構造を取るか、ベンゼン環の共鳴エネルギーを失うキノジメタン構造を取る不都合が生じるためと考えられる。
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