トレーガー塩基を含むシクロファンの合成にはこれまで室温13日という長時間が必要とされてきたが今回高速液体クロマトグラフを用いて反応温度の最適化を検討し、反応を最適温度60度で行なうと収率をほとんど損なわずに反応時間を19時間に短縮できることがわかり簡単な操作で容易に大量合成ができるようになった。得られた大環状トレーガー塩基のメチレン鎖の除去やそれに伴う置換基の導入反応についても従来の方法では40%程度でしか目的物が得られていなかったが溶媒の選択、試薬量の最適化により70-90%の収率で安定して合成を行なうことが出来るようになった。 本研究の最終目標である不斉反応の触媒の配位子として用いるための予備実験として、いくつかの金属塩について得られたジアミンの錯化反応を検討した。その結果ジNH体について予想通りニ座配位子として塩化ニッケルとの錯体が得られ、さらにその錯体のX線結晶解析にも成功し配位構造などについての詳細な知見が得られた。 不斉反応のためには配位子の光学分割が必要になるがトレーガー塩基を持つシクロファン、そのメチレン基を取り去ったジNH体、NHNMe体、ジNMe体のすべてが光学活性カラムによる光学活性体への分割、分取ができることが判った。中でもジNH体は左旋体と右旋体とのピークの分離が非常に大きく大量分取に適していることがわかり極めて有望である。 また初期の計画をさらに発展させ、このトレーガー塩基由来のシクロファンジアミン2個を2本のエチレン鎖でつないだ新しいタイプの大環状テトラミン合成にも着手した。これはこれまで広く用いられている強力な配位子シクラムと類似した構造であるが、光学活性であり興味ある性質が期待できる化合物で現在カップリング反応による大環状化合物合成まで成功している。
|