研究概要 |
本年度は、6,6'-位に(C_6F_<13>CH_2CH_2)_3Si-基が付いた(R)-BINOL((R)-F_<13>BINOL)を出発原料にして同じ基本骨格を持つフルオラスBINAPを合成し、これを配位子にして触媒的な不斉合成反応を検討することを目的にして研究を行った。 先ず、F_<13>BINOLのビストリフラートをジフェニルフォスフィンと反応させて得られるF_<13>BINAPを過酸化水素で酸化して、ジオキシドF_<13>BINAPOとした。これを、フラッシュカラムクロマトグラフィーで原料のビストリフラートと分離し、更に再結晶して精製した。F_<13>BINAPOは、MeOTf/LiAlH_4還元法でF_<13>BINAPに戻し、アルゴン雰囲気下脱気溶媒を用いて、酸素に触れないように注意しながら精製した。得られる粘性のある液体は、アルゴン下室温に放置すると結晶化した。 このF_<13>BINAPを用いて、林等によって報告されている不斉Heck反応を試みた。ベンゾトリフルオリド及びベンゼンを溶媒にして均一系の反応を行うと、反応速度はオリジナルの反応に比べて遅いが、ほぼ同じ不斉収率を得ることが出来た。ベンゼン/FC-72(FC-72:CF_3(CF_2)_4CF_3)二相系の反応でも、93%eeとオリジナルの反応よりも僅かに高い不斉収率が得られた。しかし、均一系の反応で、フルオラス逆相シリカゲルカラムを使って回収したキラル配位子はほとんどF_<13>BINAPOであった。二相系での反応でも一回目の反応後、上層のベンゼン相を注射器で抜き取って、新たな基質のベンゼン溶液を加えて二回目の反応を試みたが反応は進行しなかった。TLCで反応を追跡すると、FC-72相にあるキラル配位子は二回目の反応の時点ではF_<13>BINAPOになっていた。このように、いずれの場合でも反応中にF_<13>BINAPは酸化されてしまい、F_<13>BINAPのままリサイクルすることが出来なかった。これは、F_<13>BINAPの長いフルオラス側鎖が酸素と強いアフィニティを持つために現れる特有な性質であり、同様にフルオラス溶媒が酸素を溶かし易いためと考えられる。従って、F_<13>BINAPをリサイクルするためには、フルオラス溶媒の酸素を完全に取り除くこと、反応中特に二相系の反応で生成物と基質の有機溶液を交換する際に空気中の酸素が混入しないようにすることが不可欠である。 今後、これらの問題点を解決し、F_<13>BINAPを他の触媒的不斉合成反応にも応用する予定である。
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