研究概要 |
(1)タングステンメチル錯体Cp^*W(CO)_3Me(Cp^*=η-C_5Me_5)を嵩高い置換基もつヒドロジシランHSiMe_2SiMeMes_2存在下で光照射したところ,シリル(シリレン)タングステン錯体Cp^*W(CO)_2-(=SiMes_2)SiMe_3(1)が得られた。1は初めての塩基で安定化されていないシリル(シリレン)錯体であり,本研究の最大の目標としていた化合物である。1の結晶構造解析に成功し,タングステンーシリレン配位子間が非常に短いことなど,その特異な構造を明らかにした。また1の^<29>Si NMRを測定したところ,シリレン配位子のケイ素に帰属されるシグナルは380.9ppmという,これまでに例の無い低磁場に現れることが明らかになった。 (2)昨年度合成に成功した塩基の配位していないゲルミル(ゲルミレン)タングステン錯体Cp^*W-(CO)_2(=GeMe_2)GeMe_3にFe_2(CO)_9を反応させたところ,ゲルミル基がタングステンから鉄に転位し,ゲルミレン配位子が2つの金属原子を架橋した錯体Cp^*(OC)_3W(μ-GeMe_2)Fe(CO)_3GeMe_3がほぼ定量的に生成した。これはゲルミレン-金属結合に対する配位不飽和種の付加反応として初めての例であり,またゲルミル基が2つの金属の間を転位した初めての例である。 (3)シリレンおよびゲルミレン錯体の研究を発展させ,陽イオン性シリレン錯体およびシリリン錯体と等電子構造の関係にあるガリル錯体およびガリレン錯体の研究を開始した。その結果,塩基で安定化された裸のガリウム架橋錯体の合成に初めて成功し,またガリレン架橋錯体の幾何異性化反応を発見しその速度論的解析に成功するなど,多大な成果を得た。
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