マルチトレーサー法は、生物体内における複数の微量元素の挙動を同時に調べるのに優れた方法である。亜鉛欠乏マウス体内における無担体レニウムの挙動を同時に生成するマルチトレーサーの挙動とともに調べるために、金をターゲットとして高エネルギーに加速した荷電粒子を照射したときの放射性レニウムの生成条件およびマルチトレーサー溶液の調製方法について検討した。さらに、生成した放射性レニウムやその他の放射性核種の生体への吸収と体内分布について検討した。しかしながら、単純な化学操作にてターゲットから分離した状態でのマルチトレーサー溶液中の放射性レニウムは、生体への吸収率はほぼ100%と高いものではあったが、その代謝速度は著しく速く、薬理効果を念頭においた生体内における配位子置換反応を検討するためには、さらなる予備試験が必要であるとの結論を得た。そこで、レニウムとは同族元素で、化学的に類似してはいるが、レニウムと比較して化学修飾を受けやすいテクネチウムを用いて基礎的試験を行うこととした。 高エネルギーに加速した荷電粒子を照射した銀ターゲットからマルチトレーサー溶液を調製したところ、十分に挙動の追跡が可能な量のテクネチウムを含むマルチトレーサー溶液を得ることができた。これを金属性疾患のモデル動物として作成した亜鉛欠乏マウスに経口投与した。その結果、多くの元素については対照として用いた正常なマウスと体内挙動には有意な差を認めることはできなかったが、一部の元素については亜鉛欠乏マウスの主な臓器・組織における取り込み率が著しく上昇していた。テクネチウムについては、その吸収率はレニウムより著しく低く、また、症例数が少ないため断定することは難しいが亜鉛欠乏状態では取り込み率が低下することから、腸管における作用の受け方がレニウムとは異なる可能性が認められた。
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