マルチトレーサー法は、生物体内における複数の微量元素の挙動を同時に調べるのに優れた方法である。本年は、レニウム錯体の薬剤としての応用を念頭に置き、昨年に引き続き、レニウムと同族元素で化学的に類似してはいるが、レニウムと比較して化学修飾を受けやすいテクネチウムを用いて、生体への吸収とその吸収過程における化学修飾に関する基礎的動物試験を行った。 高エネルギーに加速した荷電粒子を照射した銀ターゲットからテクネチウムを含むマルチトレーサー生理食塩水溶液および塩酸酸性溶液(pH 3)の2種類の溶液を調製した。これらを、3週齢から3週間にわたって亜鉛欠乏餌を用いて飼育したマウスおよびその対照となるマウス、また、8週齢から3週間または6週間亜鉛欠乏餌を用いて飼育したマウスおよびその対照となるマウスに、それぞれ、腹腔内および経口投与を行った。各投与から一定時間経過毎に、主な臓器を摘出し、種々の元素の取り込み量を調べた。その結果、3週齢から亜鉛を欠乏させたマウスに経口投与を行った場合には、テクネチウムの取り込みが大きく上昇していた。これは、腸管からのテクネチウムの吸収量が増加したことを意味しているが、この傾向は、亜鉛、コバルトおよびマンガンについても認められた。亜鉛欠乏状態であることを考慮すると、亜鉛、コバルトおよびマンガンの吸収量の増加は容易に説明することができた。しかしながら、テクネチウムのトレーサー溶液中の化学形は、他の陽イオンとは異なりTcO^-_4とみなされることから、亜鉛と共通の吸収部位を考えることは困難である。したがって、このテクネチウムの吸収増加は、TcO^-_4が腸粘膜中などにおいて化学修飾を受ける可能性を示唆しているものと考えることもできる。
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