1.ジクロロエトキシオキソビス(トリフェニルホスフィン)レニウム(V)[ReOCl_2(OEt)(PPh_3)_2]の塩基加水分解反応機構 [ReOCl_2(OEt)(PPh_3)_2]は、レニウム(IV)および(V)錯体の合成の出発物質として利用されているように、レニウム錯体の中では比較的不安定で置換活性に分類される錯体である。したがってその塩基加水分解反応機構の解明は、放射性レニウム標識化合物の迅速合成ルートの確立に寄与できるものと考えられる。塩基加水分解反応は、[ReOCl_2(OEt)(PPh_3)_2]を溶かしたクロロホルム溶液を所定濃度の水酸化ナトリウム水溶液と振り混ぜることによって行わせた。その加水分解反応の様子を有機相の紫外部における吸光度測定により追求した。錯体の吸収極大である273mmの吸収は時間とともに減少し、かわりに262mm吸光度が増加した。解析の結果、この塩基加水分解反応速度Rは、R=κ[OH^-][ReOCl_2(OEt)(PPh_3)_2]のように表され、25℃においてκ=1.03×10^<-4>M^<-1>s^<-1>と求められた。 2.マルチトレーサー中のレニウム、テクネチウムおよび生体微量元素の体内への吸収および代謝レニウム錯体の薬剤としての応用を念頭に置き、レニウムあるいは同族元素で化学的に類似しているテクネチウムを含むマルチトレーサー溶液を用いて、それらの生体への吸収と代謝に関する基礎的動物試験を行った。トレーサー溶液中の放射性レニウムは、生体への吸収率はほぼ100%と高いものであったが、その代謝速度は著しく速く、生体内での配位子置換反応を検討するには困難なものであった。レニウムと比較して化学修飾を受けやすいテクネチウムを含むマルチトレーサー溶液を亜鉛欠乏マウスに経口投与したところ、その吸収率はレニウムより低く、また、正常なマウスと比べて取り込み率は低下していた。
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