これまでに、ポルフィリンに親和性を有するDNA配列が数種類見出されており、そのらの一部分はポルフィリンへの金属イオン挿入反応を触媒することが知られている。このようなポルフィリン結合性一本鎖DNAの中で、最も優れた金属イオン挿入反応活性を有する塩基配列はdGTGGGTTGGGTGGGTTGGの18量体(DNA1)である。本研究では、触媒活性と塩基配列の関連を解釈するために系統的な塩基配列に着目した。例えば、連続するGGGの配列をGGGGで置換したGTGGGGTTGGGGTGGGGTTGG配列(DNA2)、および短鎖のdTGGGT配列(DNA3)を合成・精製した。DNA1は無触媒条件に比べて約8倍の反応速度でポルフィリンへのCu(II)イオン挿入反応を促進する活性を示した。CDスペクトル測定の結果からDNA1はparallel型四重鎖形することが支持された。DNA2およびDNA3はDNA1に比べてより安定な4重鎖を形成するにも関わらず触媒活性を示さなかったことから、G四重鎖以外に触媒機能に必要な因子があることが示唆された。DNA3にN-methyl-mesoporphyrin(NMM)を加えて得られたNMRスペクトルでは、G4重鎖における両端のGイミノプロトンに環電流効果に起因する高磁場シフトが認められ、ポルフィリンは四重鎖にインターカレートするのではなく、G-quartetの両端にスタッキングすることが示された。さらに、DNA1のCu(II)錯体は平面4配位構造を示し、可能な配位子はG四重鎖に関与していない2つのGとして帰属された。以上結果から、金属挿入反応における触媒部位は、Cu(II)イオンが配位しうるGが複数個存在するG四重鎖構造の近傍である可能性が示唆された。本研究によって、DNA鎖の酵素類似活性はG四重鎖の疎水環境と金属配位部位の共同作用によって発現することが結論された。
|