研究概要 |
平面四角形型d^5遷移金属錯体の置換反応や幾何異性化反応は会合型機構で進むことが多く、その中間体の5配位錯体も多く単離、研究されている。我々は[Pt(hfac)_2](hfac=ヘキサフルオロアセチルアセトネート)と無機陰イオンとの反応で、すでに四角錐型5配位錯体、[PtX(hfac-O,O')(hfac-O)]^-の塩を単離し、その溶液中のダイナミクスを報告した。今年度はこの系のab initio計算を行い、実験結果との良い一致を見い出した。一方、[Pt(hfac)_2]とメチルアミンとの反応では、5配位錯体ではなく、アミノ基が一つのhfacカルボニル炭素に付加した珍しい中間体錯体、(MeNH3)^+[Pt(hfac)(hfac/NHMe)]^-1が単離された。この錯体をCH_2Cl_2溶液中低温で放置するとシッフ塩基錯体、[Pt(CF_3COCHCN(Me)CF_3)_2]が生成するので、ケトンやアルデヒドと一級アミンとの反応でイミンができる反応の四面体型中間体をはじめて安定に取り出したものと評価される。また1の溶液を室温で放置すると[Pt(hfac)(MeNH_2)_2]^+(hfac)^-に変化した。このことからPt(hfac)_2と求核試剤との反応は、求核試剤がP-塩基、S-塩基およびハライドイオンのようにソフトで金属との親和性が高い場合は5配位中間体を通るのに対し、ハードなN-塩基の場合はカルボニル炭素をまず求核攻撃して準安定な付加体をつくるが、温度上昇とともに離脱して金属を攻撃して置換を起こすことがわかった。また中間錯体1はH_2O、MeOH、ニトロメタンおよびアセトンと反応し、容易に-OH、-OMe、-CH_2NO_2,および-CH_2COCH_3基がカルボニル炭素に付加した錯体を与えた。こうして新たに生成したC-N、C-OおよびC-C結合は、X-線構造解析によれば結合距離はそれほど長くないにもかかわらず、容易に切断される性質を持っていることが明らかとなった。このように容易なC-N、C-OおよびC-C結合の生成と切断は大変珍しい。
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