研究概要 |
本研究では、新規非対称型架橋配位子3-[1-(2-pyridyl)-3,5-dimethylpyrazole-4-yl]pentane-2,4-dione(HL)を用いて、環状構造を有する金属集積型錯体の合成、及びそのガス吸着能を評価した。 配位子HLとCu(ClO_4)_2・6H_2Oとの自己集積反応により、六核環状構造を有する{[Cu(L)(H_2O)]ClO_4}_6・21H_2O(1)が得られた。(1)は環状骨格内に約18Åの空孔を有し、格子内で環状ユニットが積層することで1次元チャネル構造を形成していた。しかし、環状ユニット間に対イオンと結晶水が多数存在するため、加熱脱水処理により積層構造が乱れてチャネルが塞がり、顕著な吸着能は示さなかった。脱水処理によるアモルファス化は、熱分析及び粉末X線回折により確認した。また、粉末X線回折によりこのアモルファス状の(1)を空気中に数日もしくは水に約1分間浸すと、結晶性が復元されることを確認した。 積層構造の強化のため、小分子の格子内への取り込みを検討した。尿素(urea)及び1,3,5-trimethoxybenzene(PhOMe)添加した場合に、結晶性のアダクト,{[Cu(L)(H_2O)]CF_3SO_3}_6・6urea・8H_2O(2),{[Cu(L)(H_2O)]ClO_4}_6・2PhOMe・24H_2O(3)が得られた。化合物(2)では環状ユニット間にureaが取り込まれていたものの、晶系がHexagonalからTriclinicまで落ちた。その結果、脱水処理に対する格子の安定性は向上したが、ユニットの積層様式が変化して対イオンがチャネルを塞いだため、顕著なガス吸蔵は起きなかった。一方、化合物(3)は(1)と殆ど同じ結晶格子のまま、環状ユニット間にPhOMeを取り込んでいた。PhOMeは3回軸上に存在し、3つの環状ユニットとスタッキングしていた。(3)は加熱脱水処理に対しても高い格子安定性を示し、分子取り込みによる積層構造の強化が確認された。今後この化合物のガス吸蔵能について評価していく。 全ての化合物において、環状ユニットの空孔内には何も取り込まれていなかった。しかし、(1)の溶液にPhOMeを添加した混合物のNMRでは、PhOMcと環状ユニット間の相互作用による常磁性シフトが観測された。今後は対象分子をモデル計算で検討した上で、溶液状態での小分子取り込み能を評価する。
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