研究概要 |
光照射による励起状態の結晶構造解析は,手法の開発と,それを適用できる対象試料の探索の2本立てで行ってきた.解析手法については,光励起によるX線回折強度の変化を高精度で多数測定するために,イメージングプレート(IP)と放射光を組み合わせることにした.SPring-8 BL02B1に設置された「低温真空カメラ」(姫路工業大学理学部 鳥海教授が開発)に光照射装置を取り付け,さらに光照射時-非照射時の回折強度を1枚のIPに記録できる「多重露光機構」を設置し,回折強度の変化の検出の精度について評価を行った.IPに記録されたX線回折像は,時間による減衰(フェーディング)があり,光照射時-非照射時の記録時間の差でも回折強度変化より大きな誤差が生じることがわかり,多重露光をできるだけ短い時間でくり返すことにより,絶対強度の向上とフェーディング誤差の低減ができるようにした.その結果フェーディングの影響は3%以下まで押さえられることができた.現段階では,この誤差は強度の尺度因子等で補正しているが,測定データで誤差を1%未満まで押さえる必要があり,次年度の重要な課題の一つである.対象試料については,銅多核錯体に限らず,もっと広く探索する必要があり,今年度は,白金,ロジウムの単核および多核錯体に対象を広げた.白金については,ホスホン酸を配位子とする単核錯体で低温真空カメラを用いて紫外線照射下で実験を行った.その結果,光照射下で結晶温度が上昇するにもかかわらず,単位格子軸が短くなる現象が見られ,光励起による結晶構造の変化が検出できる可能性がでてきた.またロジウム錯体に関しては,励起寿命が長いと予想される,ヨウ素とピリジンを配位子とする新奇錯体を合成し,結晶構造と発光特性等の解析を行った.
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