二核鉄ペルオキソ錯体の合成とこれを用いた酸素分子の活性化:ヘキサピリジン配位子(hexpy)を用いて安定なペルオキソ二核鉄(III)錯体[Fe_2(O_2)(O)(hexpy)](CF_3SO_3)(1)を合成した。1はMeCN中、25℃で、半減期が12時間とかなり安定であった。hexpyの二核鉄(III)錯体[Fe_2(OAc)_2(O)(hexpy)](CF_3SO_3)_2)(2)はm-CPBAを酸化剤として用いたときにシクロヘキサン(CH)の一原子酸素添加反応を触媒し、その触媒回転数は1000回を越える高速・高効率なものであった。hexpyは立体障害となる置換基を持たないので、その二核鉄錯体は外部基質に対する酸素化能力が高く、メタンモノオキシゲナーゼ(sMMO)の基質酸素化反応を再現する優れた機能モデルといえる。また、1は、ペルオキソ錯体であり、sMMOの中間体Pのモデル化合物である。そこで、1を活性化してCHの一原子酸素添加反応を実現すれば、sMMOの酸素活性化を再現する初めての機能モデルとして有用と考えられる。ペルオキソ基を活性化するためには、ペルオキソの酸素-酸素結合を切断する必要がある。sMMOでは、切断された酸素原子の1つはプロトン化を受けてH_2Oとして放出される。1の場合も、ペルオキソの酸素原子をプロトン化もしくはアシル化する事によって活性化されると考えられる。そこで、活性化剤として過塩素酸や酸塩化物の存在下で1によるCHの一原子酸素化を試みた。しかし、この条件下では基質の酸素化は全く起こらなかった。その理由として、1の鉄(III)イオンのルイス酸性が高いためにペルオキソ酸素へのアシル化が困難であると考えられた。そこで、酸塩化物を活性化するために少量のDMFの存在下で同様の反応を行ったところ、1は活性化されCHはシクロヘキサノールとシクロヘキサノンへと一原子酸素化された。この時の基質酸素化生成物の収率は、酸塩化物の反応性に依存した。即ち、反応性が中程度のアセチルクロリドでは、収率は、20%程度であったが、反応性の高いトリクロロアセチルクロリドでは40%以上に向上した。今回の研究は、ペルオキソ二核鉄錯体を活性化してアルカン類の一原子酸素添加に成功した初めての例であり、sMMOの酸素活性化機構を解明するために重要であると考えられる。
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