1)二核銅酸素錯体の合成:様々なヘキサピリジン配位子を合成して、そのμ-η^2:η^2-パーオキソ二核銅(II)錯体を得た。これらの錯体は、酸素分子を可逆的に結合した。μ-η^2:η^2-パーオキソ二核銅(II)錯体による酸素分子の可逆的結合は銅まわりの歪みによって達成されていることがわかった。そこで、さらに歪みの大きいμ-η^2:η^2-パーオキソ二核銅(II)錯体を合成して、可逆的な酸素分子の結合が容易に起こることを示した。また、oxyHcによる酸素分子の可逆的吸脱着において重要な働きをしていると考えられている銅-銅間の距離の効果を再現する機能モデルの合成を試みた。このための配位子として、長いスペーサーをもつ新たなヘキサピリジン配位子を合成した。銅-銅間の距離が大きくなると、酸素分子に対する親和性が低下して、容易に酸素分子を脱離することが示された。従って、銅-銅間の距離の変化は、μ-η^2:η^2-パーオキソ二核銅(II)錯体による酸素分子の可逆的吸脱着に重要な働きをすることが示された。6位メチル基をもつヘキサピリジン配位子のパーオキソ二核銅錯体は、オキシヘモシアニンの構造を再現するだけでなく、室温付近で可逆的に酸素分子を吸着する機能モデルとして有用である。 2)二核鉄ペルオキソ錯体の合成とこれを用いた酸素分子の活性化:ヘキサピリジン配位子(hexpy)を用いて安定なペルオキソ二核鉄(III)錯体[Fe_2(O_2)(O)(hexpy)](CF_3SO_3)(1)を合成した。1はMeCN中、25℃で、半減期が12時間とかなり安定であった。1を活性化してアルカン類やオレフィン類の一原子酸素添加反応を実現すれば、sMMOの酸素活性化を再現する初めての機能モデルとして有用と考えられる。少量のDMFの存在下に様々な酸塩化物を加えると、1は活性化されシクロヘキサンはシクロヘキサノールとシクロヘキサノンへと一原子酸素化された。この時の基質酸素化生成物の収率は、酸塩化物の反応性に依存した。即ち、反応性が中程度のアセチルクロリドでは、収率は、20%程度であったが、反応性の高いトリクロロアセチルクロリドでは40%以上に向上した。今回の研究は、ペルオキソ二核鉄錯体を活性化してアルカン類の一原子酸素添加に成功した初めての例であり、sMMOの酸素活性化機構を解明するために重要であると考えられる。
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