研究概要 |
本研究では固体基板上に形成されるチオール系自己組織化膜の形成過程をSTM及びXAFSによってin-situで追跡し、分子自己組織化のミクロスコピックなメカニズムの理解を目指すことを目的として研究を行ってきた。特に注目した点は、分子・基板相互作用が与える自己組織化への影響である。このことを調べるためにチオール基との相互作用が異なる幾つかの基板(Au,Ag,Cu,O/Cu,Si)を用いて自己組織化過程の膜の配向性と界面構造を調べた。これらの系の系統的な比較から、分子膜の構造秩序化に3つの重要な因子、(1)十分な分子密度、(2)表面拡散、(3)膜の内部構造と基板との界面構造の整合性、があり、これらがすべて満たされたときのみ高度な秩序性を持った膜へ自己組織化することが分かった。また、自己組織化する系において、基板によって(1)が相対的に重要になる吸着律速と、(2)が重要になる拡散律速の二通りの自己組織化の様式があることを示した。これらの結果の一部は国内雑誌に報告し、一部はJ.Phys.Chem.Bに投稿中である。もう一つ注目した点は、アルカンチオールに官能基を導入して分子間の相互作用を変えた場合に自己組織化に与える効果である。具体的には、チオフェン及びポルフィリンを導入したアルカンチオール分子の金基板上での振る舞いについて検討した。チオフェンを導入した系では、上記の(3)の構造整合性が分子密度によって変わるため、ある範囲の分子密度でのみしか自己組織化が起きないことが分かった。ポルフィリンを導入した系では、大きなポルフィリン環が吸着を立体的に阻害するので、吸着部位であるチオレート基を長いアルキル鎖によってポルフィリン環から十分離さないと分子密度が上がらず自己組織化しないことが分かった。官能基を導入した場合も上記の3つの因子を満たすことが自己組織化に必要であることを実験的に確認できた。
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