本研究では、発光蛋白質イクオリンが有するカルシウムイオン感応性、高効率性、発光色制御機能の分子メカニズムを解明し、人工的にイオン感応性発光素子を開発するための基礎理論の確立をめざした。イクオリン生物発光については、基礎的問題である「発光時における発光体セレンテラミド励起分子のイオン構造」がフェノレートアニオンであることを確立した。この際、様々な溶媒中でフェノレートアニオンの蛍光を観測する条件を確立した。これを基にセレンテラミド誘導体の蛍光性に関する精密な溶媒効果の検討と物性評価を行い、フェノレートアニオンが一重項励起状態にて分子内電荷移動性を有することを見出した。本結果は発光色決定に働くアポタンパク質中の活性部位が疎水性環境場であることを予想した。今年度報告されたイクオリンの結晶構造解析の結果は我々の仮説を支持し、発光体の構造決定が妥当であることを裏付けた。さらに発光反応の動的過程における基質とアポ蛋白質の超分子相互作用の役割について検討する段階に進んだ。 化学発光機構については、イミダゾピラジノン誘導体と酸素分子との電子移動反応のモデル系の確立をめざした。共役置換基を系統的に変化させたイミダゾピラジノン誘導体を用い、各種キノン類等を電子受容体として用いた分子間反応性を検討した。この結果、溶媒極性と受容体の電子受容能に依存した新たな分子間反応を見出した。併せてイミダゾピラジノン環の基本物性の評価を行い、イミダゾピラジノン環が弱い反芳香族性を有し、高い電子供与性であることを示唆する結果を得た。さらに見出した分子間反応における電子移動の関与と発光反応性との相関を明らかにするため、反応中間体の補足ならびに反応速度論解析を進めている。
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