本研究では、発光蛋白質エクオリンが有するカルシウムイオン感応性、高効率性、発光色制御機能の分子メカニズムを解明し、人工的にイオン感応性発光素子を開発するための基礎理論の確立をめざした。エクオリン生物発光については、基礎的問題である「発光時における発光体セレンテラミド励起分子のイオン構造」がフェノレートアニオンであることを実験的に確立した。この際、様々な溶媒中でフェノレートアニオン蛍光を観測する条件を確立し、この蛍光特性に関する精密な溶媒効果とフッ素置換基効果の検討と物性評価を行った。これによりフェノレートアニオンの一重項励起状態が分子内電荷移動性を有し、生物発光を再現しうることを確認した。本結果は発光色決定に働くアポ蛋白質中の活性部位が疎水性環境場であることを予想した。2000年に報告されたエクオリンの結晶構造解析結果は我々の仮説を支持し、発光体の構造決定が妥当であることを裏付けた。さらに発光反応の動的過程における基質とアポ蛋白質の超分子相互作用の役割についての検討に研究を展開している。 化学発光機構については、発光基質と酸素分子との電子移動反応モデル系の探索を行い、置換基を系統的に導入したイミダゾピジノン誘導体と電子受容体分子との新たな分子間反応を見出した。さらにこの分子間反応における電子移動の役割と発光反応性との相関について解析を進めている。また、金属イオンとの錯体生成によってイミダゾピラジノン誘導体の化学発光特性を制御するため、クラウンエーテルを導入した誘導体の合成を行った。この誘導体は金属イオンとの錯体生成を示すが、この際にイミダゾピラジノン環自身も配位子として働くことが見出された。この結果を基に、化学発光性に縛られず、特異な吸収、蛍光特性を有するイオン感応性プローブ分子の開発に研究を展開し、複合型誘導体を設計、合成して金属イオン認識特性の評価を進めている。
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