黒色ペリレンのサーモクロミズムの解明と光ディスクへの応用を念頭に置き、分子構造・結晶構造・分子間相互作用の立場からペリレンの電子構造に関する一連の研究を行った。初年度はペリレンのサーモクロミズムが分子構造の熱的な変化で誘起されるのではなく、分子間相互作用の変化に起因するものと想定し、機械的なストレスによって分子間相互作用を変化させることを試みた。ダイヤモンドアンビルセルを用いた静水圧の実験から黒色のペリレンは直ちに赤色に変化することが分かった。すなわち、分子の配列を乱す(結晶→非晶質)ことが色調変化の本質であることが明らかになった。次年度にはサーモクロミズムのメカニズムと遷移モーメント間の相互作用という見地から検討を進めた。黒色ペリレンでは遷移モーメント間の相互作用が大きく、分子固有の吸収帯と励起子結合効果に基づく吸収帯の2本のバンドが可視域に出現し黒色を呈することが結論された。更に、上記の第2の吸収帯は分子配列に依存する吸収帯であるので、温度変化により分子の格子点も揺らぎ、吸収スペクトルにも大きな温度変化が誘起されることが明らかになった。これが黒色ペリレンのサーモクロミズムのメカニズムである。このような分子配列の変化が可逆的に起こるような系ではサーモクロミズムが観測されるが、非可逆に起こる場合には色調の変化も一過性である。非可逆的に黒色に色変化する新規なペリレン化合物("黒らしい黒"を呈する化合物)も本研究の過程で見つかった。本化合物は液晶カラーフィルターのブラック・マトリックスの材料として有望であることが示された。また。サーモクロミズムを使った光ディスクへの応用は上記の黒色ペリレンで実現し、635nmのレーザーで反射率が"高"から"低"あるいは"低"から"高"に変化することを確認した。
|