研究概要 |
本研究では,二次元金属を容易に与えるπ電子骨格として,本研究者らにより開発されたテトラチアペンタレン(TTP)系ドナーに化学修飾を施すことにより三次元的な電子構造を有する分子性金属を構築することを目的としている。本年度に得られた成果は以下のとおりである。 (1)上記分子性導体よりも強い三次元性が期待される分子として,セレノメチル基を有するSM-(T)PDTおよびSM-(T)PDSの合成を行い,それらを用いた陽イオンラジカル塩の作製を行った。(SM-PDT)X(PhCl)_m(X=PF_6,AsF_6)のX線構造解析を行ったところ,通常の二次元導体に見られる分子短軸方向のside-by-side相互作用と異なり,分子長軸方向にピラン環およびセレノメチル基同士による酸素-酸素およびセレン-セレン接触が見られる擬二次元導体であることが明らかとなった。これらの塩はドナーとアニオンが1:1組成をもつため,いずれも半導体であったが,室温の伝導度は10^0Scm^<-1>と1:1塩にしてはかなり高い伝導性を示すことが明らかとなった。 (2)TTPダイマーはスペーサー部分を含むと30Åに及ぶ長さを有するため,一つの分子が二分子にまたがって積層するといったspanning overlapにより二次元性を確保した後,side-by-side相互作用を加えた三次元的な相互作用の期待される分子システムである。本年度,スペーサーとしてアルキルジチオ基を用いたTTPダイマーの合成に成功した。CV法により電気化学的性質を検討したところ,4対の二電子酸化還元波が観測された。最も低電位側の波がブロードになっていることから,二分子のTTP間にはわずかながらも相互作用があることが示唆された。 上記の結果をまとめた論文については一部を除き投稿済みである。
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