本研究は、新しい分子組織化のための界面として高分子(あるいは分子集合体から成る)ゲルの表面に注目し、ゲル界面(表面)における分子組織化学の方法論を開拓した。 【1】基質として水溶性ナノ粒子(シリカコロイドや蛋白質)を選び、これらをアガロースゲルの表面に展開した。チトクロムcを展開したところ、大部分がゲル表面に留まることが、蛋白質の色から確認された。このゲル表面に、雲母やグラファイトなどの基板を接触・剥離させて、転写基板上の組織状態を、蛍光顕微鏡、分子間力顕微鏡(AFM)、走査型電子顕微鏡ならびに水晶発振子により評価した。その結果、基板表面にゲル上に展開したシリカ粒子やヘム蛋白質が転写されることが判明した。 【2】アガロースゲル表面に、フェリチンを展開し、電子顕微鏡グリッドに転写して電子顕微鏡観察を行ったところ、フェリチンが転写されていることが判った。 【3】シリカナノ粒子を転写したグラファイト基板を水に浸漬し、超音波照射により洗浄した。洗浄後のグラファイト基板をAFM観察したところ、表面にアガロースの二次元状ネットワーク構造(高さ2-5nm)が観察された。このことから、アガロースゲルの表層はこの二次元ナノネットワークより覆われており、これがゲル表面上に展開された親水性ナノ粒子を固体基板上へ転写する際に、分子糊(molecular glue)として働くものと考えられる。 以上より、ゲル表面をナノ物質の組織場とする新しい手法を開拓することに成功した。
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