研究概要 |
(1)有機物導電体におけるπ電子供与性分子としてよく知られているTTF(テトラチアフルバレン)のケイ素類縁体であるジシラTTFの合成を最終目的に、まずその構成要素であるジチアシロール類、すなわち1,3-ジチア-2-シラシクロペンタ-4-エン誘導体を系統的に合成した。その物性を検討した結果、シロールとは異なり、ジチアシロールでは、ケイ素上の置換基が最高占有軌道(HOMO)準位に摂動を与えることを見出した。特にケイ素上に2つのシリル基を持つ誘導体は、ケイ素上にメチル基を有する対照化合物に比べて第一イオン化ポテンシャルが0.5eVも小さい。 (2)シラトリアフルベン誘導体とシクロプロペノン誘導体の反応により、1-シラビシクロ[3.2.0]ヘプター2,4,6-トリエン誘導体(1)が得られた。X線結晶構造解析により、1は高度に歪んだ構造を有していることが分かった。たとえば、5員環部のケイ素に隣接した二重結合の軸周りは30°以上ねじれている。また、橋頭位の炭素周りの3個の結合角の和は333°と非常に小さくピラミッド化している。しかし、このような歪みにもかかわらず、1は空気中、室温で安定である。これは縮環部分のケイ素により環歪みが緩和されていることに加えて、嵩高い置換基の立体保護によって速度論的にも安定化されているためと考えられる。1の炭素類縁体は、反応中間体として仮定されているのみで、その存在は確認されていない。ケイ素原子を導入することで、この骨格が安定に単離できたことは興味深い。
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