研究概要 |
ランタノイド(III)がβ-ジケトンとルイス塩基によって大きな協同効果を受け,それぞれの抽出剤を単独に用いた時に比べ,その抽出が著しく改善されることは古くから知られていたが,(1)単座配位子を使う場合と2座配位子を用いる場合の協同効果の現われ方のちがい(ランタノイド系列での協同効果の現れ方は2座配位子では原子番号の増加と共に大きくなるが,単座配位子では逆に小さくなる),(2)β-ジケトンによるランタノイド系列に現れる協同効果の大きさのちがい,(3)同一のランタノイド(III),β-ジケトン,ルイス塩基であっても有機溶媒によって協同効果の大きさが異なる,等の理由は説明されていなかった。 本研究では種々のルイス塩基による付加錯体の生成定数を全ランタノイド(III)について決定し,ランタノイド系列を通じての錯体種の変化並びに安定性,錯体形成時の熱量変化,関連化学種の水和数の変化のデータに基づいて(1)と(2)の検討を行った。さらに,協同効果の大きさに有機溶媒中に溶存する水と有機溶媒の有する活性水素が大きく貢献することを,親キレートと付加錯体の中心金属の水和数の変化とIRスペクトルに現れる化学シフトから明らかにした。 以上,ランタノイド(III)のβジケトン並びにβ-ジケトンと各種ルイス塩基による抽出を詳細に調べ,抽出定数の大きさに与える溶媒効果ならびにβ-ジケトンと各種ルイス塩基の構造と付加錯体の関連についての新しい知見を得た。 以上の結果は化学的な性質の類似性からアクチノイド(III)の地球環境での挙動の研究に代替元素としてランタノイド(III)を利用する際の問題点を示唆するという波及的な結論をもたらし,溶液化学だけでなく環境分析にも有益なデータとなった。
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