DNA修復に関与すると思われる2つの変異原感受性突然変異株の特性を調べた。mus-10株は第VII連鎖群のmet-7とwc-1遺伝子の中間に位置している。メチルメタンサルフォン酸(MMS)に約2倍程度の感受性を示すが紫外線(UV)などには感受性を示さない。DNA修復欠損株との間でのエピスタシス関係は、mus-18との間で相加、相乗的な関係を示すが、他のどの変異ともそのような関係はみられなかった。ホモ欠損での交雑でも正常な子嚢胞子を産生した。当初この遺伝子は組み換え修復に関わると考えられていたが、これらの結果は、必ずしもそのような結論にはならないことを示す。MMSによる突然変異誘導頻度や減数分裂時の相同組み換え頻度も野生型と変わらない。mus-10の分生子を生長管の一方に植え、その後の生長を先端生長として測定すると、最初は、この株の生長速度は野生株と変わらない状態であるが、数回の植えつぎを行うと、急速な生長速度の低下がおこり、やがて生長は完全に停止する。この時の菌糸は黒ずみ、あちこちで菌糸の溶解が観察される。野生林では現在まで行った十数回の植えつぎにおいても生長速度の低下は見られない。現在、この株のミトコンドリアDNAを単離し、その安定性を確認する実験を行っている。もう一つの変異株nc-recQ(アカパンカビrecQホモログ遺伝子の欠損株)は、他の生物のRecQホモログに一般に見られる配列を元にアカパンカビからPCRで取り出された遺伝子でゲノム中の遺伝子を破壊した株である。この株はやはりMMSに感受性を示すがUVには感受性を示さず、エピスタシス関係では、mus-38と相加、相乗関係を示すが、他の株との間ではその関係は見られない。現在、この株の生長速度の測定を行っている。
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