アサガオ(Ipomoea nil)は日本独自の園芸植物であり、江戸時代に多くの花色、模様や形態に関する突然変異体が単離され、現在まで保存されてきている。これまでに単離された突然変異遺伝子のほとんどにトウモロコシのEn/Spm類似のトランスポゾンが挿入しており、これらをTpn1ファミリーと呼んでいる。コピー数を推定した結果、Tpnはハプロイドゲノムあたり、1000コピー程度と非常に多数存在していた。これらは制限酵素地図から、およそ30種類以上に分類され、そのうち24グループについて、完全な塩基配列を決定した。Tpnの両端は28bpのTIRからなり、それに連なる高度に反復した共通な領域、その内側には反復配列を含まない共通な部分が見られた。さらに、その内側にはグループ特異的な配列があり、これは様々な高等植物の遺伝子と高い相同性があった。例えば、HMG、βガラクトシダーゼ、ミオシン、花の形態形成に関わるようなAP2など多様な遺伝子である。これは、進化過程において、Tpnが内部にアサガオの遺伝子を取り込んできたのだと考えており、構造から3′側からコピーしたことが示唆された。このような構造を持つトランスポゾンが増えている生物はアサガオしか知られていない。また、AP2遺伝子の機能しているアサガオの遺伝子をクローニング比較した結果、Tpn内のAP2のコピーは複数のアミノ酸置換・終止コドンが存在し、偽遺伝子化していた。植物遺伝子では、遺伝子数(dose)が増加すると逆にその遺伝子の転写量が減少することが知られている(cosuppression)が、多くのcDNAが単離されたことから、Tpnの内部配列は明らかに転写しており、このTpnが宿主(アサガオ)の遺伝子発現に影響を与えていることは十分考えられる。また、このことは宿主とトランスポゾンの関係を考える上でも非常に興味深い。
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