研究概要 |
ショウジョウバエの発生過程で細胞が増殖、成長する際に、細胞によって細胞周期の構成が異なることが知られている。例えば幼虫細胞は、S期とG期を繰り返し倍数化するが、成虫原基の細胞は、G1,S,G2,Mという4期から成る通常の細胞周期で増殖する。DNA複製因子RF-C140の突然変異体を解析したところ、成虫原基細胞のDNA複製は強く抑制されていたが、幼虫細胞の複製はほとんど影響を受けていない。複製因子の安定性が細胞周期の違いにより異なる可能性が示唆された。さらにこの点をDNAポリメラーゼεについても検討した。まず同遺伝子の完全長cDNAの塩基配列を決定し、エキソン・イントロン構造と全アミノ酸配列を予想した。抗体を作成し、増殖組織の全細胞で局在を観察した。さらにP因子トランスポゾンのimprecise excisionによりε遺伝子の発現調節領域をTATAボックスの直前まで1.8kbにわたって欠いた変異体を2系統単離した。それらの変異ホモではDNAポリメラーゼεがまったく発現していないと考えられる。どちらも胚期に致死となり、DNAポリメラーゼεがショウジョウバエのDNA複製に必須であることが示された。ヘテロ個体でも野生型にくらべて幼虫ならびに蛹の生育が遅延することがわかった。幼虫の生育は幼虫細胞の倍数化に、蛹の生育は成虫原基細胞の増殖と分化と密に関連する。DNAポリメラーゼεの欠損は、細胞周期の違いによらず、どのDNA複製にも同じように影響を与えると考えられた。またDNAポリメラーゼεは精巣の先端でも高い発現が観察されたので、減数分裂前DNA複製にも関与すると推測される。現在、EMS処理によりhypomorph変異を単離し、DNAポリメラーゼεが複製エラーを感知するチェックポイントにも関与することを遺伝学的に証明しようとしている。
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