宮城県鳴子町の火山性強酸性湖潟沼において、3月下旬から12月にかけて2週間間隔で、水温、溶存酸素濃度、硫化水素濃度、pHなどの水質と、DAPI染色による細菌の現存量の垂直分布を調査した。 1.湖泉は春の短期間の循環期の後、停滞期に入り表層水と深層水の2つの層に成層したが、表層水と深層水の温度差は夏期になっても湖底からの熱の供給があるため小さかった。そのため停滞期に気温が低下すると、表面水の水温が下がり湖水が一時的に短期間循環する現象が数回起きたことが温度ロッガーのデータより明らかになった。この一時的な循環は溶存酸素や硫化水素などの水質への影響が大きく、これは潟沼の特徴といえる。9月以降は循環期になり、湖水は全層でほぼ一様にり、徐々に水温が低下していった。 2.細菌の現存量の計測から、湖水中には細胞内にイオウ顆粒を蓄積した幅約1μm糸状の細菌が年間を通じて優先して、その量は常に500mm/ml以上見られ、停滞期の終わりには最大になり、1500mm/mlにも達した。秋の循環期になると桿菌が一時的に優占したが、水温が低下すると桿菌は減少した。細菌群集は湖水の成層状態に影響を受けていることが示唆された。 3.細菌群集から単離した菌株の分子系統分類的な位置を知るために、数種類の硫黄酸化細菌培地、硫酸還元細菌培地、希釈普通寒天培地などを用いて、湖水より菌株の単離を試みたが、現在単離できたのは希釈普通寒天培地からのみであった。それぞれの機能グループに属する細菌の系統分類をするためには、更に異なった組成の培地による単離を試みる必要がある。一方、湖水に多量に生息する糸状細菌は、湖水のサンプルから直接的に希釈法やクローングによって、16SrRNA遺伝子を増幅し、塩基配列を決定する方法が効果的であり、13年度の重点的な課題になると考えられる。
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