研究概要 |
サンゴ礁の砂泥底には,岩礁とは異なるユ二ークなサンゴ群集が見られる。このようなサンゴ群集の成立と維持機構を,棲み込み連鎖の視点から解明することを目的して,西表島の網取湾において湾口から湾奥にかけて17の調査地点を設置し,それぞれの地点で砂泥や砂礫などの沈殿物の堆積した場所を選び,転石や岩盤上のサンゴの密度と個体群構造を定量的に調べた。特徴的な出現種はキクメイシモドキとタヤマヤスリサンゴで,湾の中部から奥部にかけて堆積物の多い浅所に集中的に高密度で分布していた。両種とも砂泥の堆積に対して強い耐性を持ち,群体は半ば砂泥に埋没している状態のものが多かった。湾の最奥部は泥底で固着基盤がないため,これらのサンゴは棲息せず,湾の中部から湾外にかけても見られなかった。これまで野外個体群について研究が皆無のタヤマヤスリサンゴについては,加入や成長過程を分析するために追跡個体群を特定して個体群構造を把握し,その追跡調査を開始した。一方,湾奥部の深所の泥底には,丈の高い樹枝状のミドリイシ類,トゲミドリイシ類およびミレポラが大きな群集を形成していた。これらの群体基部は泥底に埋没して全て死亡しており,部分的に死亡した群体破片が散在し,破片化による無性生殖で増殖していると考えられた。サンゴのパッチの周辺部には多数の群体破片が見られ,これらの泥に埋まった部分以外は生きており,破片化によって分布範囲を広げているように思われた。また,大型の群体の死亡部分や古い骨格には,泥底上では棲息できない多様なサンゴが低密度ながら着生しており,サンゴ骨格への棲み込みが泥底のサンゴ群集の発達に重要な役割を果たしていることが示唆された。これとは別に,沖縄島の大浦湾で泥底に棲息するスイショウガイの成貝背面へのキクメイシモドキの付着状況,および中城湾で打ち上げ貝への付着状況を調べた。
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