研究概要 |
サンゴ礁の砂泥底や懸濁物の多い内湾に発達する特徴的なサンゴ群集の成立と維持機構の解明を目的として,西表島の網取湾で野外調査と野外実験を行った。タヤマヤスリサンゴは南岸に限定され,湾の中央部やや湾奥部よりに高密度分布域があり,湾口・湾外では確認されなかった。堆積物の粒度は湾口から湾奥にかけて細かくなり,最奥部では細かい粒子の堆積が特に著しかった。この種には,ある程度の濁りがあり,底質が沈殿物にある程度覆われる場所が適しているようであった。高密度域の平坦な砂岩上の個体群を追跡調査した結果,砂岩上の堆積物量の違いが分布に影響していると思われた。観察開始当初(1999年7月)の114群体は翌年5月には87群体に減少した。部分的死亡の多かった8群体のうち5つがそれまでに死亡し,当初最大であった2群体では顕著な部分死亡が見られ,うち1つは複数に分割した。全死亡は直径2.4〜20.6mmの広い範囲にわたる13群体でみられた。幼生が定着したと思われる新規加入群体は11であった。湾奥部泥底の樹枝状ミドリイシ類,トゲミドリイシ類及びミレポラのパッチの周辺部には多数の群体破片が見られた。破片の泥土に埋没した部分は全て死亡しており,破片化によって分布範囲を広げているように思われた。泥底にオオトゲミドリイシと枝状ミレポラの破片を設置してその生存を追跡したところ,大きな破片ほど生存がよく,複雑な形状の枝を持つミレポラの方が生存率が高かった(実験継続中)。大型の群体の死亡部分や古い骨格には,固着性サンゴ類の着生が認められ,サンゴ骨格への棲み込みが泥底のサンゴ群集の発達に重要な役割を果たしていることが示唆された。また,沖縄島中城湾の海岸沿いにさらに調査地点を増やして,海岸帯に打ち上げられた古いスイショウガイの死骸にキクメイシモドキが着生している状況を調べ,このサンゴの巻き貝への棲み込みが広く認められることを確かめた。
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