研究概要 |
サンゴ礁の砂泥底に成立する造礁サンゴ群集の成立と維持機構を,「棲み込み連鎖」仮説に基づいて明らかにすることを目的として研究を行った。 1) 西表島網取湾においてキクメイシモドキとタヤマヤスリサンゴ個体群を追跡調査した。砂岩自然石の上に成立したタヤマヤスリサンゴ個体群について詳しいマッピングと計測を続け,新規加入や群体の部分的死亡や全死亡などの動態を把握したが,泥底への適応形質の解明は将来に残された。2) 沖縄島大浦湾でキクメイシモドキのスイショウガイへの棲み込みによる砂泥底への進出に関して継続観察を行った。このサンゴは沈殿物の除去能力に長けるだけでなく,スイショウガイの殻背面への限定的な棲み込みが重要であることが確認された。また,金武湾の砂底における定量調査によって,ワレクサビライシとスツボサンゴに加えて,ムシノスチョウジガイの生息が確認された。後者2種のサンゴはホシムシとの棲み込み共生関係で,またワレクサビライシはその形態と行動が砂泥環境に適していることが確認された。3) 網取湾奥部の砂泥底に散乱した樹枝状サンゴの骨格に様々な群体性固着性のサンゴの着生を確認した。群体下部が泥底に刺さった「浮き群体」の骨格が,プラヌラ幼生の付着基盤として使われ,通常なら生育できない泥底にサンゴの死後に提供される二次空間への棲み込みが種多様性の増加と維持に重要であることが確認された。4) 西表島網取り湾の湾奥部の泥底に実験的に設置したミレポラとオオトゲミドリイシのサイズの異なる破片の生存状況の追跡を行った。何れの場所に置いても大きな破片が小さな破片より生存が高いことが確認された。このような観察は砂泥底では初めての知見である。生存破片は基部が泥底に刺さって安定したように見えた。このような破片の生存部分の成長によって,やがて大きなパッチが形成されることが予測された。
|