研究概要 |
同翅亜目に属する昆虫類について,精子の形態と配偶行動の関係を調査した.本年度はとくにツマグロオオヨコバイについて精子の形成過程,卵巣の発育過程,交尾後の精子と精包の運命などについて,季節的な調査を実施した. ツマグロオオヨコバイの卵は春に産みつけられる.初夏に孵化した幼虫は植物の汁を吸いながら成長し,夏には成虫となる.成虫はやはり植物の汁を吸う.オスの成虫では,精巣で精子の形成を開始し,貯精嚢の中に徐々に精子を蓄えていく.成虫のまま越冬する.春,越冬からさめたオスはまた精子の形成を再開し,メスと交尾をするようになる.メスの成虫は夏から秋にかけてオスと同様に植物の汁を吸うが,越冬前には卵巣は未発達のままである.春,越冬からさめたメスは急速に卵巣を発達させ,卵が成熟していく.交尾はこの時期になって始めて観察される.春の終わりに,メスは産卵を終えて成虫の寿命はつきる. 交尾の際,精子は精包と呼ばれるゼリー状物質に包まれてオスからメスの体内(交尾嚢内)に渡される.精子はまた,ロープ状のタンパク質でできた物質によって束ねられている(これを精子束という).メスの体内では,精子のみが精子を特異的に保存する袋(受精嚢)の中に移動し,産卵時にそこを卵が通過するときに受精が起こる.精包およびロープ状の物質は交尾後数日以内にメスの体内で消化吸収され,卵形成の栄養として利用される(ローダミンを含んだタンパク質を交尾嚢内に注入すると,数日後に卵巣中の卵からローダミンが回収される).メスは何回も交尾する.よって,精包および精子束は,メスにとって,オスからの婚姻贈呈物として機能していると考えられた.
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