本州中部地方の火山荒原に見られる植物種は少ない。これは基質の移動、貧栄養、乾燥、強光などの環境に耐えることがきわめて困難であることを推測させる。未侵入の地域に植物が定着するためには栄養繁殖体あるいは種子を搬入する必要がある。維管束植物の場合は種子が一般的である。富士山南東部には宝永火山に由来する火山礫が堆積し、そこに10数種の植物が侵入している。イタドリが大小のパッチを形成し、古いパッチに他種が侵入・定着するパターンが見られる。パッチに関係せずにフジアザミが独自に定着し、クローン集団を形成している。 この地域で代表的な2種、イタドリ、フジアザミの実生の定着機構を明らかにするために、実生の成長を追跡した。イタドリ実生については、Maruta(1976)によって、夏の乾燥期までに吸水可能な5cmの深さに根を伸長させることの重要性が指摘されている。富士山東南斜面、標高約1600mに圃場を設け、イタドリ実生とフジアザミ実生各500個を個体間隔20cmで100個体を水平方向に1列、列間1mで10列に移植した。うち、それぞれの種について、各2列には個体の斜面上部2cmに固形肥料を3粒埋めた。定期的に採取し成長を測定した。移植後2週間の7月初旬には両種とも根の長さは5cmを越え、吸水可能な深度に到着した。2週間目の生存率は肥料区では両種とも70%程度、無肥料区でイタドリは約50%、フジアザミで約60%であった。夏には、両種、両区で死亡数が多く、強光、高温の影響が大きいことが推測された。最終測定の9月初旬の肥料区ではフジアザミで25%、イタドリで5%であり、無肥料区ではほとんどが死亡した。
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