一次遷移初期状態の火山荒原は強光環境のもとにある。そこに侵入・定着する植物は強光とともに高温と乾燥環境にさらされる。小さな芽生えあるいは実生にとって、これら3つのストレスは大きなものと推測される。富士山南東斜面の標高1600〜1700mの火山礫地にはフジアザミ、イタドリを優占種とする先駆植物種群が生育する。この地域ではイタドリ実生のほとんどが夏に消失する。その原因として、これらストレスの影響が大きいと思われる。フジアザミ実生は秋まで生残するものがイタドリより多く、ストレスに対する耐性がより大きいと推測される。平成13年度はフジアザミを材料として、強光に対する適応を研究した。生育地の植物は強光適応していると思われるので、そのままの状態ではこの適応を把握することはできない。そこで、生育地のフジアザミ数個体を約30%の光強度に被陰することによって、弱光環境に生育する個体をつくった。強光下の個体と弱光下の個体との比較によって強光適応を検討した。弱光個体の葉身の厚さは強光個体より薄くなった。しかし、面積あたりのクロロフィル含有量は変わらず、クロロフィルa/b比にはっきりした変化は起こらなかった。積分球と波長別エネルギー測定装置を用いて測定した弱光個体の葉の光反射率と透過率は強光個体の葉とほとんど同じであり、季節的な変動も認められなかった。葉の内部での光反射を見るため、葉片に水浸透処理を行い光吸収率を調べた。処理による光吸収率の低下は強光個体で大きく、強光下の葉の方が内部反射により光を多く吸収していることが明らかになった。酸素電極法で測定した光合成活性や飽和光強度は弱光個体の方が低かったが、呼吸活性は低下しなかった。以上のことから、フジアザミの葉は強光に対して適応していること。この適応形質・機能は弱光環境になっても変化しないこと。つまり、弱光適応ができにくいことが示唆された。このことは、弱光個体が被陰によって減少した物質生産量から強光適応のコストを生みださなくてはならないので、遷移の進んだ地域では生育しにくいことを意味している。
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