3種類の共存するヤドカリ(ホンヤドカリ、ケアシホンヤドカリ、イソヨコバサミ)の競争力について、しらべた。野外で採集したホンヤドカリとイソヨコバサミについて、それぞれの種から1個体づつを取り出しひとつの水槽に入れ、どちらかの種の貝殻を50%以上壊し、貝殻の奪いあいの行動を調べた。貝殻を壊したイソヨコバサミ1個体と、野外で採集された特に貝殻に何も細工をしないホンヤドカリ1個体の組みを80つくり、それぞれ組みごとに水槽に入れ、48時間観察した。その結果、イソヨコバサミがホンヤドカリから貝殻を奪ったのは80例中9例(11%)であった。このうちイソヨコバサミ♂がホンヤドカリ♂から奪ったのが37例中5例(14%)、イソヨコバサミ♂がホンヤドカリ♀から奪ったのが11例中1例(9%)、イソヨコバサミ♀がホンヤドカリ♂から奪ったのが28例中3例(11%)、イソヨコバサミ♀がホンヤドカリ♀から奪ったのが4例中0例(0%)であった。また攻撃を仕掛けたのは、イソヨコバサミ♂が48個体中6個体(13%)、イソヨコバサミ♀が32個体中3個体(9%)であった。これらの結果は、イソヨコバサミはホンヤドカリにおける競争的優位者であること、イソヨコバサミはオスもメスも、同じような頻度でホンヤドカリを攻撃し、貝殻を奪うこと、攻撃はホンヤドカリのオス、メスに関係なくおこなわれることを示している。また攻撃行動は主として貝殻を激しく相手にたたきつけるいわゆるshell fightingにおけるrapping行動であることもわかった。これはまた同時に異種間で闘いのコミュニケーションが成立していることを意味している。一方、その反対に貝殻を壊したホンヤドカリ1個体と、野外で採集された特に貝殻に何も細工をしないイソヨコバサミ1個体の組みを80つくり、48時間観察した場合では、貝殻の交換はおこらなかった。また、貝殻を壊したイソヨコバサミ1個体と、野外で採集された特に貝殻に何も細工をしないケアシホンヤドカリ1個体の組みを80つくり、同様の観察をおこなったが、やはり貝殻の交換はおこらなかった。
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