葉緑体ATP合成酵素のγサブユニットの調節部位の構造変化と調節機能の関係を明らかにすることを目指して、(1)調節領域のアミノ酸への変異の導入、(2)調節領域上のジスルフィド結合を還元するチオレドキシンとの相互作用、(3)抗チオレドキシン抗体を用いたATP合成酵素とチオレドキシンの相互作用の研究、を行った。 (1)調節機能を担う二つのCysの近傍の荷電アミノ酸のアラニン置換や削除、調節領域の予測されるヘリックス構造の削除などが制御能におよぼす影響を調べた。その結果、調節領域の構造変化が調節能に直接関与していることが明らかになった。また、負電荷アミノ酸のクラスターを除去することで、ジスルフィド結合の還元によって活性が低下するという本来の機能を逆転させるような機能を付加できることも判明した。この実験に用いたキメラ複合体は、収率が低く不安定で非効率的であるため、好熱菌F_1のαサブユニット、βサブユニットと葉緑体CF_1由来のγサブユニットの大腸菌内での共発現を試み、複合体を得ることに成功した。 (2)(3)調節領域とチオレドキシンの相互作用の詳細を調べるために、既に作成した活性中心のシステインの一方を欠いた変異体にヒスチジンタグを導入した変異チオレドキシンを作成した。この変異チオレドキシンを用いて、ATP合成酵素γサブユニットとの相互作用(混合ジスルフィド結合の形成)を調べる実験を試みたが、混合ジスルフィド結合の形成に至っていない。このために、チオレドキシン活性中心に対するモノクローナル抗体は作成したものの、ATP合成酵素へのチオレドキシンの結合を検出するための抗チオレドキシン抗体を使った研究は、まだ行っていない。
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